小学校⑦

・そういえばずっと体がおかしかった。
 なんで気が付かなかったんだろう。
 5キロ痩せたって喜んでたのが5か月前くらいだった。
 糖尿病は血糖値が高くて痩せるから、私は5か月前から
 既に病気になってたんだと思う。
 毎日小6女子とは思えないくらいのご飯やお菓子を食べて
 のどが異常に乾いて、水筒のお茶じゃとてもじゃないけどたらなくて
 学校の水道水をガバ飲みしたりしてた
 もともと水分をよく飲む方で、すぐに一気するタイプだったから気が付かなかった
 そういえば、座ってるのもしんどかった。
 普通に座れなくて体が重くて腰で座ってる事が多くなってた
 足もつるし、べろがおかしいし、夜トイレが近すぎて、
 深夜に1階のトイレに行くのが怖くて分かってたけどおもらししたことも何回かあった
 でも私は気が付かなかった。お母さんもお父さんも誰も気が付かなかった。
・病院で入院が決まって、いつ倒れてもおかしくなかったって言われた。
 私はめっちゃめっちゃ嬉しかった。
 ついに私の苦労や傷ついた事が表に出たような感じがして、
 入院って言われた時にワクワクした。
 入院の部屋まで、車いすでいった。
 車いすは初めて乗った。私ってそんなにボロボロなんだってハスハスしてた。
・私はなんだか、最強の復讐ができたような感じがして嬉しかった
 見ろ、お前らのせいでこんだけボロボロになったんだよ
 お前らがほっといたから、私にあんなことしたから
 さぞ後悔するがいい、反省して、死にたくなれよって思った。
・入院の部屋に運ばれて、さっそく看護婦さんが私の腕に注射を打った
 これが初めてのインスリン注射だった。
 私の病気は注射しないといけない病気なんだって知った。
 私は嬉しかった。
 ずっと昔に、テレビでインスリンを打ってる子のドキュメンタリーを見た時に
 すごく羨ましかったから。
 この子はこれがあるからみんなに注目されて、心配されるんだって
 うらやましくて、嫉妬して、たいしたことないくせにって見下した。
 それを自分で叶えてしまった。
 私、病気になった!わーーーい!!ってなった。
 その自分と、え、病気なの、ずっと注射なの、入院なの、って不安と心配
 な私と、心配で不安なフリしてる私と、色んな私がいた。
 注射を打たれて、そのまま寝た。
 お母さんが荷物を持ってきて、それで起きた。
・それから、ポーチを自分のお腹にみたてて、インスリン注射の練習をしたり、
 血糖測定の練習をした。
・お母さんに、お父さんは呼ばないでって伝えた。
 本当に来てほしくなかった。
 お母さん曰く、お父さんは私がゲームしすぎたから病気になったって言ってたと言ってた。
 私は頭の奥が、ずーーーんとした。
 ずーーんとしたけど、心のどこかで、ここまでも追い込んでくるお父さんに、
 なんかワクワクして、どこまでこいつは最低でクソなんだろうっていう目で
 見てる自分がいた。
・お兄ちゃんは、泣きながら、かなえをお父さんにかなえを治してって言ってたらしい。
・でも私は、そりゃ嬉しいけど、あんまり心に響かなかった。なんか茶番のように聞こえた
・とりあえず私は、お父さんから離れられたこと、自分が今、誰か自分を責めたとしたら
 明らかにそいつらが悪者になるという安心感、
 けんくんの死ね事件から逃げられたこと、とか色んなことから逃げられて、
 この病気で入院した私を誰か攻撃してきた瞬間にそいつが悪者になるという
 安心感でいっぱいだった。
 今この私を追い込んできた奴がいたら、どこまでも地の果てに突き落としてやるわって思った。
・注射はすぐになれた。血糖測定もすぐになれた。というか、するしかなかった。
・私は部屋が空いてなくて、小児病棟で入院してた。
・同じ部屋には、幼稚園くらいの女の子が3人いた。みんな大変そうだと思った。
・私は一つ絶望したことがあった。お菓子を禁止された。
・これからもお菓子を制限される事を知った。痩せられる、と思った反面、
 同じ部屋の子たちが食べてるのを見たら複雑な気持ちになった。
 なんだかな、かわいそうだな、自分。って、かわいそうな自分に浸った。
・病院のご飯は美味しくて、体重はすぐに戻ってった。
 よく考えたら10キロくらい痩せてた。本当にどうして誰も気づいてくれなかったの
・お母さんは、毎日スギナ茶とか、糖尿病にいいと言われるものを持ってきた。
 お父さんの指示でもあった。
 私は、あんたは自分で治せるから大丈夫。絶対治るからって言われた。
 この言葉が後から、治らない私へのプレッシャーになった
・お見舞いは誰か来たっけ。覚えてない。
・私は毎週金八先生を見るのが楽しみだった。
・毎日寂しかった。お母さんが来るの、嬉しかった。
 お母さんは私が卒業式で着る上着をお見舞いにくる時にいつも手縫いで作ってくれてた。
・私はお菓子食べたい、食べれないってぐずったら、お母さんは同じ部屋のお母さんたちに注意してた。
・隣の女の子のお母さんのいびきとかがうるさすぎて、わざと聞こえるように
 まじでうるさい、頭大丈夫かよみたいな感じでお母さんに愚痴ってたら、
 次の日にそのお母さんが私のとこに来て謝りに来た。むかついたんだろな
 私は、小さな復讐をあちこちでしてたんだと思う。
 人をイラつかせたかったんだと思う。
 目の前の女の子のママにも嫌われてたと思う。
 でも、嫌われてるのが、ふふっ、って楽しくて、バーーーカって思ってる自分もいた。
 でもお母さんの前では被害者のように病んだように話してた。
 小さな事が気に食わなかった。
 女の子たちが楽しそうに遊んでたり、お菓子食べてたり、
 親が普通に見えて、家柄が普通に見えて、イライラしてた。
 ブス、デブ、死ねって、思った。
 バカにして、見下して、そうすることで私の中の何かを保ってた。
・私は血糖測定の時に、いかに早くできるか選手権を一人でやってた。
 昔からなぜか、早く終わらせたい、というのが強くて、
 何かをするたびに誰にも追われてないのに、急いでやってた。
 看護婦さんが本当に早いねって言ってくれるのが嬉しかった
・夜中、体がかゆくなったりして、看護婦さんに伝えて、
 体をふいてくれたのが、なんか嬉しかった。
・毎日毎日、持ってこられたスギナ茶をガブガブと飲んだ。
・お母さんに肩をマッサージされた時に、あんたこんなにかたいの!!って言われた。
・入院してる途中で、みんなからの手紙が届いた。嬉しかった。
・そんなこんなで、私は卒業式ギリギリに退院した。
・退院の時は、お父さんも来た。嫌だった。
・久しぶりに、糖質少なめのビスケットを食べた。嬉しかった。
・入院はもうあきてたから、家に帰れるのが嬉しかった。
・家の途中で、よく行ってたカフェに行って、大好きなパンを食べた。
 すごく美味しかった。
 今でもあそこのパン屋さんの水槽の魚を覚えてる。
・家に帰ったら、また地獄が始まった。